ムード音楽とは
20世紀初めに、まだ電子音楽やロック音楽が発達する前に、クラシック音楽と軽音楽が融合された音楽にムード音楽というものがありました。ムード音楽とは、20世紀初頭に純粋なクラシック音楽から発展した商業用の軽音楽の一つです。
これにはイージーリスニング、ラウンジミュージック、エレベーターミュージック、そしてアルゼンチンタンゴと合わさって出来たコンチネンタルタンゴなども属し、初期の映画音楽もこれに含まれる(初期以降の映画音楽は異なる)。
そしてニューイージーリスニングはあいまいな境界線となり、環境音楽が絡んできたニューエイジミュージックやヒーリングミュージックは、ムード音楽の範疇に含まれない場合が多いが、ムード音楽からの派生という見方が多いため、この項で扱うことにします。
映画音楽についても通してこの項で扱う。
軽音楽からムード音楽へ
軽音楽とは、クラシック音楽や古典音楽に対するポピュラー音楽全般(ジャズ・シャンソン・タンゴ・流行歌など)をいい、純クラシック音楽や伝統音楽に対して、20世紀初期に商業的に流通された気軽に聞くことのできる比較的小規模な音楽をいいます。ライトミュージックともいいます。
電子音楽が発展していない頃、クラッシク界やアカデミーの人間が蔑称的に「軽音楽」と使うケースが多かったが、電子音楽などの発展と現在のクロスオーバーな多彩音楽のため、商業音楽の兼ね合いからポピュラー音楽というジャンルに一括りされる流れと、元々軽いクラシック要素が入っていたため「ムード音楽」などの癒し系の兼ね合いからヒーリングミュージックへの流れと、大きく分けて2つあるように思える。
この項は主に後者の方の流れを進んでいくことにします。
ライトミュージックは、イギリスに源流を持つ。
19世紀末頃から20世紀初頭にかけて、海辺のリゾート地で保養客を相手に演奏を披露するシーサイド・オーケストラというものがありました。
シーサイド・オーケストラはポピュラーな歌謡曲をオーケストラ向けに編曲したものや軽いクラシック音楽を幅広く演奏して人気を博し、有名なクラシック音楽の作曲家エドワード・エルガーなどもこうした演奏向けの作品を残しています。
この演奏スタイルを1930年代にBBC(英国放送協会)がとりあげたのが、ライトミュージックが放送向きのジャンルとして確立するきっかけになりました。
旋律を重視するという音楽的特徴があり、マントバーニー楽団 のシンボルともなったカスケーディング・ストリングス(弦を多くのプルトにわけ、わずかな時間差で同じ旋律を演奏すると、リバーブのような、滝の流れるような独特の効果が得られる)やクローズハーモニー(各声部が近い音程をもって和声を構成する方法)が代表的な手法です。
このジャンルの一つの主要な方向として、ムード音楽、イージーリスニング、ラウンジ・ミュージックなどとして現在に至っています。
ムード音楽は、広義はクラシックの作曲法を用いたライトミュージックだと言えるが、狭義は1950~1960年代のイギリスやアメリカを中心に流行ったオーケストラ演奏で、後にイージーリスニングの流れとなる音楽を示すようです。
では主にこの狭義の流れを大まかに記述します。
ムード音楽のジャンルの種類
軽音楽系統
ドラムが入った音楽- ムード音楽
- 主にイギリス・フランスの、クラシックの影響を受けた軽音楽
- コンチネンタルタンゴ
- アルゼンチンタンゴとムード音楽が混ざったヨーロッパ色の強い音楽
- イージーリスニング
- 60年代~70年代までの、主にフランスで流行ったようなオーケストラとドラムの入った音楽
- ラブサウンズ
- 70年代に流行ったイージーリスニングの別名
- エレベーターミュージック
- ショッピングモール等でかかるイージーリスニング
- ラウンジミュージック
- ラウンジでかかるイージーリスニング
ニューエイジミュージック
安らぎをテーマにしたイージーリスニング- ヒーリングミュージック
- 安らぎをテーマにした日本のイージーリスニング
映画音楽
映画用に流す劇伴音楽の一つ- サウンドトラック
- バックグラウンドミュージック
ムード音楽からイージーリスニングへの流れ
ムード音楽は、狭義の軽音楽の流れから、ストリングスを中心としたオーケストラによる演奏がメインでありました。イギリスのマントバーニ・オーケストラが1950年代初頃に「シャルメーヌ」を ヒットさせたことで広く知られるようになりました。
彼のサウンドの特徴は、先述したカスケーディング・ストリングス、クローズハーモニーにありました。 その美しい弦の音色はまさにムード音楽のお手本だといわれます。
そしてもう一つが、アメリカのパーシー・フェイス・オーケストラです。
1960年に発表した「夏の日の恋」は、ストリングス・サウンドにロックのリズムを融合させたアレンジで大ヒット曲となりました。 パーシー・フェイスはその後のイージーリスニングに通じる演奏スタイルを確立させた1人といってよいだろう。
では、1950年代~1960年代中頃にかけてのムード音楽の主なヒット曲を挙げます。
- マントヴァーニ・オーケストラ 『シャルメーヌ』
- パーシー・フェイス・オーケストラ『ムーラン・ルージュの歌』『夏の日の恋』
- ロジャー・ウイリアムス『枯葉』
- フランク・チャックスフィールド・オーケストラ『ひき潮』
- ヘンリー・マンシーニ・オーケストラ『ムーン・リヴァー(「ティファニーで朝食を」)』
この頃の特徴としては映画音楽としてヒットしたものが多いことと、イギリスやアメリカのオーケストラが人気の中心であったことが挙げられます。
60年代中頃になると、フランスのオーケストラの活躍が目立ち始めます。
フランスのオーケストラは、当時流行していた8ビートのリズムなどポピュラーやロックの要素を取り入れたサウンドが特徴で、 従来のストリングスを中心とした編成ではなく、ブラス群やドラムス等を加えた編成であることから〝グランド・オーケストラ〟と呼ばれました。
最もよく知られているのが、
- ポール・モーリア・グランド・オーケストラ
- レイモン・ルフェーヴル・グランド・オーケストラ
- フランク・プールセル・グランド・オーケストラ
- カラベリ・グランド・オーケストラ
これらのオーケストラは、スタンダード、ワールド・ヒッツ、シャンソン、カンツォーネからクラシックまで独自のアレンジを施して 演奏した、いわゆるカヴァー曲を次々と発表し、特に日本では70年代中頃にかけて爆発的な人気となりました。
この〝グランド・オーケストラ〟の台頭により、ムード音楽はイージーリスニングと呼ばれるようになったとされています。
1960年代後半~1970年代中頃にかけてのイージーリスニングの主なヒット曲を挙げます。
- ポール・モーリア・グランド・オーケストラ『恋はみずいろ』『エーゲ海の真珠』『ゴッド・ファーザー~愛のテーマ』『涙のトッカータ』 『オリーブの首飾り』
- レイモン・ルフェーヴル・グランド・オーケストラ 『シバの女王』 『哀しみの終わりに』
- フランク・プールセル・グランド・オーケストラ 『アドロ』
- サン・プルー&ダニエル・リカーリ『ふたりの天使』
- フランシス・レイ『ある愛の詩』
- ワルド・デ・ロスリオス『愛よ永遠に』
日本にムード音楽が入ったのはこの頃で、音楽シーンに多大な影響を与えた。
ポール・モーリアは日本におけるムード音楽の立役者ともなり、自身のオーケストラが演奏する楽曲は次々とヒットを飛ばし、ほぼ毎年のように来日しコンサートを開いました。
丁度、この時期がイージーリスニングの全盛時代です。 特に先述の4大オーケストラは毎年のように来日し、2ヶ月近くも日本全国でコンサートを行うほどの人気でした。
また、招聘元のキョードーが中心となり、"Love Sounds"という共通ロゴで積極的なプロモ-ションを展開した為、 イージーリスニングは別名ラヴサウンズとも呼ばれるようになりました。
1970年代も中頃になると、ポピュラーの世界ではディスコ・サウンド・ブームが起こる。
イージーリスニングの世界でもこのディスコ・サウンド・ブームの影響を受けて、ディスコ調にアレンジされ、 過去の代表作もディスコ調にアレンジし直したものが発売されました。
以下がその例です。
- バリー・ホワイトとラヴ・アンリミテッド・オーケストラ 『愛のテーマ』
- パーシー・フェイス・オーケストラ『夏の日の恋'76』
- ポール・モーリア・グランド・オーケストラ『エーゲ海の真珠・ディスコ・ヴァージョン』『恋はみずいろ'77』
そもそもイージーリスニングの魅力は、ストリングスの音色と心地よいリズムによって織り成される美しい演奏であったが、 ディスコ・サウンド・ブーム下の作品は当初のそれとはかなり違ったものになっていきます。
この頃から〝グランド・オーケストラ〟の人気は徐々に下がっていき、それに代わって、ピアノなどのソロ楽器を中心としたイージーリスニングに注目が集まるようになります。
その代表格はリチャード・クレイダーマンであり、彼の優しいピアノの音色は世界的に大人気を得ることになります。
リチャード・クレイダーマンの他にも、トランペットやパン・フルートなどを使った数多くのアーティストが登場したが、 彼らの特徴はオリジナル曲を数多く発表したことが挙げられます。
従来の〝グランド・オーケストラ〟が、カヴァー演奏を中心とするアルバム製作に重点を置いていたこととは対照的でありました。
この頃のサウンドは、従来の「イージーリスニング」と区別する為に、「ニュー・イージーリスニング」とも呼ばれます。
1970年代後半~1980年代中頃にかけての主なヒット曲を挙げます。
- リチャード・クレイダーマン(ピアノ) 『渚のアディーヌ』
- フランク・ミルズ(ピアノ)『愛のオルゴール』
- ジャン・クロード・ボレリー(トランペット)『渚のトランペット』
- ザンフィル(パンフルート)『ロマーナの祈り』
- ピエール・ポルト・オーケストラ(ピアノ)『哀しみのテス』
- スティーブン・シュラックスとドリーム・サウンド(ピアノ)『ブルー・ドルフィン』
- ニコラ・デ・アンジェリス(ギター)『アルハンブラの想い出』
これらのアーティストのサウンドは、それまでの「イージーリスニング」とは方向性が異なるもので「ニューエイジ・ミュージック」と呼ばれ、 そして現在の「ヒーリング・ミュージック」へと繋がっていきます。
ここで「イージーリスニング」と「ニューエイジ・ミュージック」の違いをの述べる。
「イージーリスニング」は、聴き手がより積極的に音楽性を楽しめるように作曲された楽曲というのに対し、「ニューエイジ・ミュージック」や「ヒーリング・ミュージック」は、聴き手が癒しとして求めるように作曲された楽曲という事です。
このように「ニューエイジ・ミュージック」のような新しい方向性を持ったサウンドが登場したが、 1980年代中頃までは従来の「イージーリスニング」もまだまだ高い人気を保っていました。 しかし、80年代も中頃を過ぎたあたりから徐々に状況が変わっていきます。
1980年代中頃と言えば、日本がバブル経済の時代に入った頃でありました。
そうした時代背景もあり、テレビ界では長寿番組が次々と姿を消し、若年層をターゲットにした新番組に入れ替わった。
ラジオ界も同じで、軽音楽やクラシックを流す番組が次々と姿を消し、 アメリカナイズされた若年層向けの番組に変わっていきました。
ラジオからイージーリスニングが流れなくなったのもこの頃からです。 70年代にあれほど一世を風靡したイージーリスニングも、メディアから見放されてしまったことで、 音楽ファンらの関心が次第に薄れていく結果となりました。
1990年代に入ってもこの状況は変わらず、新譜の発売も激減し、新たなアーティストが紹介されることも稀になりました。
こうしてイージーリスニングは古くからの熱心なファン以外には見向きもされないマイナーなジャンルとなり、現在に至っています。
ただ、21世紀を迎えて、イージーリスニング界の巨匠たちの相次ぐ他界によって、過去のアルバムがCDで復刻発売されたりと、 少しずつではあるが復活の兆しが見られています。
アーティスト
主要アーティスト
イージーリスニング
・ 1905年 マントヴァーニ 【イギリス】 《イージーリスニングの第一人者》 {カスケーディングストリングスで有名}・ 1908年 パーシー・フェイス 【アメリカ・ピアニスト】
・ 1913年 フランク・プールセル 【フランス・バイオリニスト】
・ 1921年 アルフレッド・ハウゼ 【ドイツ・バイオリニスト】 《コンチネンタルタンゴの代表格》
・ 1924年 ヘンリー・マンシーニ 【アメリカ・フルート奏者】
・ 1925年 ポール・モーリア 【フランス・ピアニスト】 《ラブサウンズの王様》 {メロディーがかなり良い}
・ 1929年 レイモン・ルフェーブル 【フランス・ピアニスト、フルート奏者】 《ラブ・サウンドのシャルマン》
・ 1930年 カラベリ
・ 1932年 フランシス・レイ 【フランス】 {多くの映画音楽の名曲を残しており、良い曲が多い}
・ 1932年 ミシェル・ルグラン 【フランス・ピアニスト】 {シェルブールの雨傘で有名}
・ 1943年 ダニエル・リカーリ 【フランス・歌手】 {綺麗な声を持つ。
ムード系だけでなくクラシック系やオペラなども歌う}
・ 1944年 ピエール・ポルト 【フランス・ピアニスト】 {他のイージーリスニングアーティストよりドラムが前に出ていて後期はジャズ色が強い}
・ 1946年 フランシス・ゴヤ 【ベルギー・ギタリスト】
・ 1950年 サン・プルー 【フランス・ピアニスト】 {クラシック色が強い上、オペラやロック、HipHopまで融合しています。
センスが良い}
ニューイージーリスニング
・ 1943年 フランク・ミルズ 《ニューイージーリスニングのピアニスト》・ 1953年 リチャード・クレイダーマン 《イージーミュージックの代表ピアニスト》
その他アーティスト
クラシックの影響をほとんど受けていません。・ 1921年 ネルソン・リドル 【ピアノ・トロンボーン奏者】
・ 1925年 ジョニー・ピアソン 【ピアニスト】
・ 1926年 ニニ・ロッソ 【トランペット奏者】
・ 1929年 ジェームス・ラスト 【ジャズ要素が強い】
・ 1930年 101ストリングス 【ドイツの140人にも及ぶ大編成オーケストラ】
・ 1937年 ノーマン・キャンドラー 【ギタリスト】 {フォーク色が強い}
・ 1941年 ザンフィル 【パンフルート奏者】
・ 1953年 ジャン・クロード・ボレリー 【トランペット奏者】
・ 1928年 バート・バカラック {ピアニスト・ジャズ色が強い}
・ ビリー・ヴォーン
・ フランク・チャックスフィールド
・ メイナード・ファーガソン
・ リカルド・サントス
・ レイ・コニフ・シンガース
・ ロニー・アルドリッチ